犬の恐怖を感じ取ることができますか?

2022/1/15

ワンちゃんは人と同じく感情豊かな生き物ですが、残念ながら話すことができません。
ただ、長く一緒にいると言葉の意味を理解してそうな時ってありますよね?
・『ごはん』、『おやつ』、『さんぽ』と言うと反応して喜ぶ子
・『おすわり』、『お手』、『ハウス』と言うとその行動をする子
・『ダメ』、『コラ』と言うとその行動をやめる子
のように経験から人の言葉を結構理解してくれていると思います。

 

では、逆に皆さんはワンちゃんの気持ちを感じ取ることができているでしょうか?
表情や尻尾の動きから嬉しそうな様子を感じ取れる人は多いでしょう。
ただ、『嫌だ』や『怖い』という感情を感じ取れる人はあまり多くないかもしれません。

 

明らかに怒っている時は上唇を上げたり、唸ったり、噛んだりするのでわかりやすいのですが、そこに行くまでにワンちゃんは何度も『やめて』という気持ちを表現しています。
今日はこの分かりづらいワンちゃんの『嫌だ』・『怖い』という感情を示す行動についてお話します。

 

 

◇ストレスや脅威に対する反応

ワンちゃんによってストレスや脅威と感じる対象(見知らぬ人、病院、爪切りなど)は異なりますが、その際に見せる仕草や行動は共通しています。
軽度のストレスであればまばたきや鼻を舐めるといった仕草ですし、耐え難いものであれば噛むという行動をするかもしれません。
これらの行動は『なだめ行動』『危機回避行動』とも呼ばれ、脅威をそらして調和を保つことが目的です。
つまり前者であれば、『さりげなく嫌だなぁ、やめてほしいなぁ』という気持ちを、後者であれば『それ以上やったら本気で怒るぞ!』という気持ちを表しているんです。

 

犬はストレスや脅威の強さによって色々な行動を取ることが分かっており、多くのレパートリーを持ちます。
これは本来群れで生活する犬がもつ高度な適応能力で、人間との日常生活でもごく普通に使われています

 

 

◇攻撃へのはしご

ストレスや脅威に対する反応はその時の状況によって段階的に変化します。
つまり、ある脅威に対して危機回避行動を行った結果、その脅威が変わらず存在していた場合は、より強い危機回避行動を行うこととなり、これはその脅威が無くなるまで繰り返されることになります。
例えば、嫌なことをされたときに『さりげなく嫌だなぁ』と伝えても相手がやめなかったときは、『強めに嫌だ』と伝えなければなりませんし、それでもやめなかった場合は『それ以上やったら本気で怒るぞ!』と伝える行動をします。

 

犬のストレスや脅威に対する反応は、このように段階的に行動が変化することから『攻撃へのはしご』とも呼ばれています。
以下に具体的な行動とはしごの図を示します。

(Shepherd, K 2009. BSAVA Manual of Canine and Feline Behaviour, 2nd edition.pages 13 - 16. Editors Debra F. Horwitz and Daniel S. Mills)
日本語引用元:Animal Training and Behavior(http://markandreward.com)

この図で分かるようにワンちゃんはいきなり噛むということはなく、まずは『まばたき』や『鼻を舐める』といったなだめ行動をします。
しかし、この行動がなかなか正しく理解されずに期待した効果が得られなければ、段々とはしごを登り、最終的には噛むという行動を取ることになります。

 

英語ですが、犬のストレスや脅威に対する反応の解説動画ありますので、ご覧ください。

順番に、『唇を舐める』『パンティング(あえぎ呼吸)』『耳を横に倒す』『ゆっくりと動く』『あくび』『キョロキョロ周りを見る』『離れる』『同じ場所をウロウロする』『怖がる反応』『唸る』『噛もうとする』『吠える』、という行動を示しています。
その後、この動画では恐怖を感じている犬は無視するのが効果的で、手を出してはいけないと言っています。
いかがでしたでしょうか?同じような動きを見たことはありましたか?
ぜひ動画の動きを見てから、みなさんの愛犬の様子を観察してみてください。

 

注意が必要なのは、このはしごは段々と登っていくことばかりではなく、例外もあるということです

 

たった1つの出来事でもそのストレスや脅威が非常に強く、そしてすぐ間近で起きた場合はすぐに攻撃行動に至ることがあります。
実際に性格が穏やかなワンちゃんでも突然強い痛みを受けた場合は、いきなり噛むという行動を取ります。

 

また、なだめ行動では効果が得られず、はしごを登っていくという経験を繰り返していくうちに、徐々にはしごの低い段を飛ばして登ることを学習することもあります
その結果として、以前は予測可能であった攻撃行動が明らかな前触れもなく起きるために予測不可能なものになってしまいます。
よくある例としては、憶病なワンちゃんは通常は耳を後ろに倒したり、固まったりしますが、たまに近寄っただけで唸ったり、噛むように威嚇するワンちゃんがいます。
こういうワンちゃんは、それまでになだめ行動ではダメでも攻撃行動で脅威を回避できた経験を何度もしてきたのでしょう。
その経験のために、はしごの低い段は飛ばして、すぐに攻撃行動を取るようになってしまったと考えられます。

 

 

◇ワンちゃんが恐怖を感じてそうな時は

上記のような例外では、攻撃行動の予測は困難でとても危険です。
また、そのような精神的に不安定な状態を継続することはワンちゃんの精神に強い負荷をかけ、予測不可能な攻撃行動だけではなく、恐怖症や異常行動につながり、治療困難な病気に発展する場合もあります
ですので、事前にこのような状況にしないように接することが重要です。
ワンちゃんが恐怖を感じている反応を見つけた場合は何が原因なのかを考え、できるだけ早くそれを取り除いてあげましょう

 

そうは言っても、生活する上で必要な出来事に対して恐怖を感じるワンちゃんもいますよね。
爪切り、歯磨き、散歩、ドライブ、ペットホテル、病院など、ワンちゃんによって恐怖を感じる対象は様々だと思います。
子犬時期の社会化が重要と言われていますが、成犬になってからも慣れさせることで恐怖を和らげることが可能な場合もあります
もし、生活する上で必要な出来事に対して愛犬が恐怖を感じてそうな雰囲気があれば、病院に相談に来ていただけたらと思います。

ワンちゃんの恐怖を取り除くことで、ワンちゃんとそのご家族がより仲良く元気に暮らせることを祈っています。

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